移住体験記
■この体験記は、「島元気郷たねがしま」プロジェクトでの提供住宅「板敷鼻団地」に入居した方の手記です。
2008年6月5日、大崎にある板敷鼻団地に入居。そう、西之表市がU・Iターン者向けに用意してくれた新築賃貸戸建て住宅だ。
私はもともと西之表市の出身なのだが、埼玉県でIT関連の会社を興していた。しかし息子が大学に進み親の手を離れても良い年頃になったことと、妻からの「そろそろのんびりとしたところで暮らしましょうか。」という言葉でUターンを決意した次第である。
しかし決意はしてみたものの、何から手をつけていいかわからない。とりあえずとインターネットで検索するうち「移住支援in種子島」というサイトを発見。管理者にメールして西之表市で「島元気郷たねがしま」プロジェクトというものがあることを教えていただいた。現在住んでいるこの住居を用意していただいたU・Iターン者へのバックアップ事業である。この事業では入居用の住宅建築、入居後のサポート等を行っているとのこと。
以降は、副市長様にお会いさせていただく機会も得て、入居申し込みも書類郵送などを経て難なく完了した。ベストなタイミングでプロジェクトを起こしていただいた西之表市に感謝。
さて、住居が決まったので次は引越し業者の手配。まず大手数社に見積もりしていただいたが...結果は軒並み80万円台だった。大して思い入れのある家具は無いのにあんまりである。なんでも関東からの引越しだと、九州の有明からコンテナ利用のフェリー便となり別の業者に委託することになるので、どうしても割高になってしまうとのこと。
気落ちしながら最後に「コスコス引越しセンター」という所に見積もりしてもらった。これは宮崎県にある引越し業者なのだが、結果はなんと40万円台。大手と比較してほぼ半額。宮崎県から関東への引越しで使ったトラックの帰り便を使うので割安になるとのこと。さらに鹿児島、種子島間ではトラックのままカーフェリーに乗せ、最後まで責任を持って搬送していただいた。ちょっとした荷物の破損があったが、きちんと対応していただいた。
そうそう、引越し前に準備したことがもうひとつあった。車である。バスもあるにはあるがなにぶん便数が少なく、種子島では車は必需品と判断したからだ。もっとも、転居後に中古車を購入する手もあったと後で気がついたが、離島ではガソリンが高めとなるので燃費のいい新型車がやはり良いと思う。埼玉に居るうちに近くのディーラーの展示場で確認して気に入った車を、種子島のカーショップ「ロータス・イトウ」に電話で発注。埼玉のディーラーでも納車まで1ヶ月といわれた車種だったので慌てての発注になったが、納車までの間も無料代車を提供していただき大変助かった。
というわけで種子島での生活が始まった。待望のスローライフである。朝からウグイスがさえずる。その他名前も知らない鳥も近くに多く住んでいることに気がついた。
あらかた引越しのダンボールが片付いたあたりで集落長さんが見えて、今度の日曜日には草払いをするので協力して欲しいとのこと。夫婦ともども軍手をして出かけた。
いや、それは草じゃないから...。チェーンソーの音が響く中、払われていたのは木であった。さすが種子島はスケールが違うなと驚く。
道の脇の直径20センチほどの木が次々と伐り倒され、我々はその残骸を邪魔にならないところに積み上げていくのだ。伐っておかないとやがて道が木でふさがれ、消防自動車が通れなくなってしまうとのこと。その残骸は、いずれ必要な人が持っていったり、朽ちて自然に還ったりするとのこと。
久しぶりにいい汗をかいた気がする。
解散の際に本日午後3時より公民会で、今回の草払いでの反省会があると告げられる。時折小雨の振る中、徒歩で公民館へ向かった。途中どしゃ降りになったあたりで、同じ板敷鼻団地に住んでいらっしゃる方の車に拾っていただいた。
公民館にはすでに20数人ほど集まっていた。テーブルには魚介類の山。私は埼玉に永く住み魚介類は苦手であったが、出されたものはとりあえず食するという図々しい性格でもあった。
あ、意外といける。というか、埼玉のスーパーの魚介類を口に入れた時のいやな感じが全くしない。目の前のトコブシ(現地名:ナガラメ)や焼き魚などを試して見たが、みなそうだ。聞けば食材はその辺で取ってきたものばかりとのこと。決して高級な食材ではないが、ひたすら新鮮なのだ。種子島の食材をベタ褒めしているブログをよく目にしていぶかしんでいたが、事実だったのだと実感。好きな人にはたまらないはずだ。
数時間もテーブルを囲んでいると、すでに集落の方とはみな顔なじみ状態。ここでもまた驚かされた。皆さんの年齢が全く読めないのだ。見た目が10歳は若く見える、男性も女性も。肌はツヤツヤ、皺も少ない。やはり食べ物のせい...なのか?
宴が終わってから気がついたが、「反省会」とは名前だけであった。
その2週間後、2回目の宴会。今回はビン回収の日だったらしい。学校がらみのものらしく、子供たちと父母会での作業だったとのこと。図々しい私は宴会にだけ参加。
今回はウニの山。シラヒゲウニ(現地名:シラガウニ)という種類とのこと。40cm×80cmほどの発泡スチロールの箱に山盛り。その箱があちこちにおいてある。8年ほど前、函館でムラサキウニのウニ丼を食べた時に半分以上残してしまったことを思い出した。
でも大崎のは違う。ウニ特有の苦味がなく、むしろ甘いとさえ感じる。ウニ特有と思っていたのは防腐剤か何かの味だったのかもしれない。こちらのは自然のまま、その辺で捕ってきて炭火で焼いただけ。本当のウニ。時折ジャリっと感じるのは殻の破片。これも自然のまま。
高級魚も並んだ。キハダマグロの刺身。テレビ局が取材にくるほどのすご腕少年漁師(14才)に直々にさばいていただいた。こちらもさすがにおいしい。
何も宴会は男だけのものではない。奥さんも来る。子供も来る。3才の子などは特にあちこちでくすぐりまくられ、笑い転げまわっている。子供は集落中の人々によって守られ、育てられているのだ。国際色も豊か。インドネシアから嫁いできた奥さんもいる。笑い声は絶えない。
集落の中ほどにちょっとしたお店がある。ポップなどで飾り付けられてはいないが、棚には普段の暮らしに十分な食料品や日用品が揃っている。私は市指定のゴミ袋などをここで買ったりしているが、その度に買ったものよりたくさんの野菜をいただいて、図々しいなりにも恐縮している。その野菜がまたおいしい。お店のおばあちゃんが育てたタマネギをたくさんいただいた時には、たっぷりとタマネギの入った贅沢なオニオンスープを作った。実に甘くまろやかで豊かだった。
その他集落長さんからパッションフルーツ、新聞屋さんからトウモロコシ...などなど多くの方から様々なものをいただいた。みなおいしく、図々しい性格に生まれたことを神に感謝。
今住んでいる板敷鼻団地の水道工事を担当した方にも出会った。ここの集落の人ではないが、実際に重機を操って土木工事を行った方とのこと。工事途中6回も水を被って大変だったから感謝しろと言う。私より図々しい人に出会えてちょっとうれしかった。
で、その水がまたおいしい。なんでも同じ水源から取水している焼酎工場があるとのこと。かなりの軟水。前述のオニオンスープのまろやかさは、この水からもきているのだろう。水を被ったことに敬意をこめ、工事担当者にも感謝。
というわけで、今ではすっかり地元の人になりきっております。この大崎にはロハスな生活を支えるものはすべて揃っており、早く10歳ほど若返って見たいと考えている次第です。
※ロハスな生活:「自分自身(及び家族など)の健康と地球環境を意識したライフスタイル」のこと。健康的な食、健康的な体、健康的な心を支えるため、健康的な地球(自然環境)を考えていく生活。